
1 たかが頭痛、されど頭痛
慢性の頭痛
当院は主に、慢性的な頭痛で困っている方の診療に力を入れています。
頭痛で日頃、お悩みの方はとても多いこと思います。本当にひどい頭痛の方は、それが理由で仕事や学校を休んでしまうこともありますよね。日本人は我慢強いので休まずに仕事にいったり学校にいったりすることも多いですが、当然仕事の効率は低下します。それよる経済的損失の試算はいろいろあるのですが、中には年間2兆円に達するとするものもあります。
頭痛全般にいえることですが、一部の急性の頭痛を除いて、大多数の慢性頭痛の診断は検査ではわかりません。だから頭部MRIをとったりするのも大切ですが、それが頭痛の改善には必ずしもつながっていない方もいらっしゃるかと思います。頭痛の診療は、ただひたすら丁寧な問診によります。診察中に患者さんは自分自身の言葉で頭痛の話しをしていただくわけですが、そもそも痛みの感じ方はひとそれぞれ、表現の仕方もひとそれぞれです。医師が丁寧に問診をしながら必要な情報を選び出し、少しずつ診断に近づけていくことになります。そういった理由で、いまだに頭痛診療は難しいものだなあと感じることもありますし、主に初診のときではありますが、どうしても長めの時間が必要になります。そういうものだとご理解していただければありがたいです。初診の時は特に、時間的に余裕がある日を選んで来院していただければこちらも助かります。
急性の頭痛
これまで経験したことがないほどの強い痛みがいきなり襲ってきた場合、雷鳴頭痛という呼び方もありますが、それが理由で来院されることもあります。おおよそ痛みが出現してからピークになるまでが1分以内と思っていいただければいいかと思います。その場合、脳に何か異変が起こっていることがあり注意が必要です。もちろん絶対というわけではなく、単に普段の頭痛の痛みがいつもより強かったということもありますし、検査しても何も出てこないことも多いです。しかしまずはCTやMRIなどでの画像検査で一度でいいので調べておくほうが望ましいと考えます。当院でもそのような場合は、その方の状況に応じて他のしかるべき医療機関を紹介し、とりあえず検査をしてもらうようにしています。当院だとどうしても待ち時間がありますから、まずはすぐに検査をすることを優先して、お近くの救急病院のようなところで検査してもらうのも安心できていいと思います。大きな異常がないということがわかればひとまず安心、頭痛はそのあとでも後日でも当院にきていただいて、じっくり時間をかけてよくしていけばいいのです。
院長の頭痛についての個人的な話
わたくし院長も実は片頭痛もちです。少なくとも小学生のころからはあったので筋金入りです。子供のころは、今みたいに頭痛の医療は発達していませんでしたので、母にもらった市販の頭痛薬をのんで、ひたすら明るいところは避けてじっとして耐えていた記憶があります。私の場合、夏の高温多湿な時期が多かったような気がします。30代のころまでは結構あったと思いますが、働き方改革など影も形もない時代でしたので、朝から晩までひたすら苦痛に耐えて仕事をしておりました。40代から減ってきた感じですが今でもまだ時々は軽いものがあります。まあこれまでがこんな感じでしたので、頭痛持ちの患者さんの気持ちは結構よくわかるのではないかと思っています。
2 頭痛って種類があるの?
ご存じのように頭痛にも種類があります。
よく遭遇する主な頭痛でいいますと、
などがありますが、それ以外にも稀なものはたくさんあります。この中で一番多く、ご苦労されている方が多いのは片頭痛かと思います。群発頭痛も特殊な頭痛で、片頭痛ほど慢性的になることは少ないですが痛みが強烈なので、患者さんは本当にご苦労されています。一つ一つの説明は後で少し解説してみますが、詳しく書くのは大変なので、受診されたときにでもまたいろいろときいてください。
1) 片頭痛とは
片頭痛は、一般にはずきずきする血管が拍動するようなリズムのある痛みであることが多いですが、人によっては締め付けられるとか重たいとか別の表現をされることもあります。頭痛がおこる直前に、前兆のあるものとないものがあります。前兆にもいろいろありますが、多いのは閃輝性暗転といって、視野にぎざぎざした光が現れ広がっていき、視野の一部が見えにくくなる現象です。嘔気や嘔吐を伴うことも多いです。また明るい光や、騒音などによって、頭痛を悪化させやすいこともあります。最大の特徴は、頭痛発症時に体動によって頭痛が悪化しやすいということです。片頭痛の要因は現在でも不明な点が多いです。いまのところ、遺伝的な要因に、環境的あるいは内因的な要素が加わって発症する多因子疾患といわれています。 片頭痛は女性の割合が多い疾患です。男女とも年齢層は幅広いですが、30代から50代ぐらいの方が多いかと思います。ストレスの多い世代だということもあるのでしょう。小学生の子供さんでも、頭痛で困っている子はおられまして、よく来院されています。60代から70代ぐらいになると、完全に頭痛が無くなるというわけではなくとも、かなり楽になる方が多いようです。
① 片頭痛の治療(生活習慣の改善)
片頭痛も他の病気と同じように生活習慣の改善も重要です。
- 夜更かしや睡眠不足にきをつける
- 休日に朝寝をしすぎない
- スマホを長時間みないようにする
- 空腹が引き金になる人は朝食をとる
- 運動やストレッチをおこなう
といったことがあげられます。
② 片頭痛の治療(急性期の鎮痛)
痛みの軽い頭痛には、アセトアミノフェン(カロナール)やNSAIDと呼ばれる一連の痛み止め(イブプロフェンやロキソプロフェンなど)で十分効果があることもあり、その場合はそれでもいいいと思います。以前はエルゴタミン製剤とよばれる薬もありましたが、後述のトリプタン製剤とよばれる片頭痛の専用の薬ができてきてからは、使用されることが少なくなりました。中~重度の頭痛の場合、そういった薬が効きにくく、トリプタン製剤とよばれる片頭痛専用の頭痛薬を使用することが多いです。それぞれのトリプタン製剤に少し特徴はあって多少使い分けたりするのですが、本人に合えばどれを使ってもいいと思います。またトリプタンには血管収縮作用に由来する頚・胸・のど・肩の締めつけ感や圧迫感、息苦しさといった自覚症状が一部の方にみられることがあり、トリプタン感覚とよばれています。それに対しては症状が軽ければ、頭痛が収まる効果はあるからということで、続けられる方もいますし、また少し違う作用機序で、それらの副作用を軽減させたものとして、ジタン系とよばれる新しい薬もあります。
トリプタン系 | スマトリプタン (商品名:イミグラン錠、イミグラン点鼻、イミグラン皮下注) ゾルミトリプタン (商品名:ゾーミッグ錠、ゾーミッグRM錠) エレトリプタン (商品名:レルパックス錠) リザトリプタン (マクサルト錠、マクサルトRPD錠) ナラトリプタン (アマージ錠) |
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ジタン系 | ラスミジタン (商品名:レイボー50mg、100mg) |
薬物乱用頭痛とは
片頭痛や緊張型頭痛の患者さんが、急性期の鎮痛薬を使いすぎることによって、頭痛の頻度、重症度、持続時間が増加して慢性的に頭痛を生じるようになった状態をいいます。おおまかにいいますと、月に15日以上頭痛のある方で、OTC薬でも、トリプタンでも、月10日以上、3か月に以上にわって服用しているとなっている可能性があります。治療は、鎮痛薬の中止と中止後の頭痛への対応、予防薬の投与になりますが、治療は簡単ではないと思いますので諦めず辛抱強くやっていくことが大切です。
③ 片頭痛の治療(予防治療)
先ほどの鎮痛薬は、痛みが出たその時に、痛みを改善するための治療になります。一方、予防治療とは、継続的に治療することによって、片頭痛の回数や痛みの程度を改善し、生活の質を向上させることが目標です。
主な薬物療法としては、血管拡張薬のロメリジン、β遮断薬のプロプラノロール、抗うつ薬のアミトリプチリン、抗てんかん薬のバルプロ酸などがあります。効果は薬物開始後すぐに出るものではなく、2~3か月かかることも多いので、辛抱強く経過をみる必要があります。頭痛の日数をおおよそ50%以上減少させるのを目的とします。
また、最近では、CGRP関連抗体薬という比較的新しい皮下注射の薬も2021年から使用できるようになっています(表1)。片頭痛の発生機序はまだ完全には解明されていせん。ただ、脳の周囲の硬膜などに分布している三叉神経が重要な役割を果たしているわれています。その三叉神経を敏感にしてしまう物質としてCGRP(calcitonin gene-related peptide)とよばれるものが大きく関与しているといわれています。そのCGRPの働きを弱める薬がCGRP関連抗体薬ですが、これまでの予防薬よりも、より片頭痛の機序に沿った画期的な予防薬ということができるかもしれません。これまでの予防薬よりも有効性は明らかに高く、使用した患者さんのうち1/2ぐらいの方は、頭痛が1/2ぐらいに減る、1/4ぐらいの方は1/4ぐらいに減る印象です。これだけでも頭痛患者さんはずいぶん楽になった感じがすると思います。もっと劇的に減るかたもいらっしゃいますが、反対に効果がもう一つはっきりしない方もおられます。効果を判定するのに3か月ぐらいは続けてみるのがいいと思います。ただいきなりCGRP関連抗体薬を開始するのではなく、まずは、上記の通常の内服の予防薬を一つないし複数ためしてみて有効でなかった方にお勧めすることが多いです。
どのような予防薬を使うかは、その患者さんとよく相談し、その人に合うものを試行錯誤しながら探してゆくことが必要です。
表1 使用可能な 抗CGRP製剤
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商品名 | エムガルティ (日本イーライリリー) | アジョビ (大塚製薬) | アイモビーグ (アムジェン) |
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一般名 | ガルカネズマブ | フレマネズマブ | エレヌマブ |
国内発売日 | 2021年4月 | 2021年8月 | 2021年8月 |
分類名 | ヒト化抗CGRPものクロール抗体製剤 | ヒト化抗CGRPものクロール抗体 | |
作用機序 | CGRPに結合しCGRPを無効化 | CGRPの受容体に結合しCGRPが作動しないようにする | |
使用方法 | 皮下注射 初月2本注射 その後毎月1本注射 |
皮下注射 4週ごとに1本注射 又は 12週ごとに3本注射 |
皮下注射 4週ごとに1本注射 |
妊婦・授乳婦への投与 | 十分検討の上で可 | 十分検討の上で可 | 十分検討の上で可 |
16歳未満への投与 ※1 | 不可 | 不可 | 不可 |
1本あたりの薬価 | 薬価:42,451円/本 3割負担:12,735円/本 (初回は2本必要) | 薬価:39,090円/本 3割負担:11,727円/本 | 薬価:38,980円/本 3割負担:11,694円/本 |
特徴 | 先行発売され使用実績が多い。初回2本注射のため即効性が期待できる。 | 12週に1回の投与が認められているので、多忙などで注射間隔を伸ばしたい人にはよい。 | 完全ヒト抗体であるため、アレルギーなどが懸念される人にはよい。 |
※1 小児への臨床試験はおこなわれていません。16~18歳への投与は健康保険で認められるかどうかで自治体によって少し差があるようです。
2) 緊張型頭痛とは
緊張型頭痛は、最も多い頭痛の一つであり、世界人口での有病率は38%といわれています。痛みの表現としては、圧迫されるような、あるいは締め付けられるような非拍動性の頭痛で、多くは両側性です。頭痛の程度は軽度~中等度で、頭痛のために日常生活に支障がでることはあっても寝込んでしまうことはあまりありません。
よく遭遇する頭痛にもかかわらず、緊張型頭痛の病態や発症機序はいまだに不明な点が多いです。姿勢異常などによって頭頚部の筋肉の緊張が高まることからはじまって、最終的に神経の末梢の部分の過敏性が高まってしまう、さらに中枢神経も痛みに対して敏感になってしまうことが考えられています。
治療に関しては、頻度が少なく、かつ日常生活に支障がない場合には治療の必要はありません。しかし、頭痛によって日常生活が制限される場合や、頻度・重症度が増している場合にっは治療が必要になります。
通常の鎮痛薬(アセトアミノフェンや、NSAIDsと呼ばれるもの)を使用することが多いです。また不安の強い方には抗不安薬の頓服使用もおこなうことがあります。鎮痛薬の使用が月に数回程度の方は、毎日服用する予防薬の必要性はかならずしも高くないかもしれません。頻度が多い方は、抗うつ薬などの予防薬、ストレスマネジメント、リラクセーション、理学療法などが推奨され、結構重要かと思います。簡単にできるもとしては、頭痛体操が推奨されています。鎮痛薬の飲みすぎが、薬物乱用頭痛につながるのは片頭痛と同じですので注意が必要です。
3)群発頭痛とは
群発頭痛は片頭痛や緊張型頭痛と比べると患者さんの数がだいぶ数が少なくなります。典型的な症状としては、片側の眼の周囲から前頭・側頭部にかけて、かなり激しい痛みが数週から数か月の期間、群発します。それが数か月から数年の間隔をもって再発してきます。夜間や睡眠中に特に痛みが起こりやすい傾向があり、片頭痛とはちがって男性の方が女性よりも多いです。頭痛と同時に、同じ側に、鼻づまり、鼻汁、流涙、結膜充血、眼瞼下垂などがみられます。痛みが強烈なので、顔の外見はそれどころではないということで診ていない方もおおいです。片頭痛はどちらかといえば薄暗い部屋でじっとしていたいという方が多いですが、群発頭痛は痛みのため落ち着かず、興奮ぎみに歩き回ったりしていることがあります。痛みは30分ぐらいから2~3時間続いて一旦おさまり、痛みのない時間帯もあります。群発期にアルコールをのむと、一気に頭痛が誘発されてしまうことがあり、慣れている患者さんは、それで群発期が続いているかどうかの予測にする方もいます。
群発頭痛の原因もよくわかってはいませんが、脳の視床下部や内頚動脈の周囲に刺激を発生するところがあるのではないかと考えられています。また三叉神経の過剰興奮が副交感神経の活性化をきたすのでないかともされています。
群発頭痛の急性期治療薬として、もっとも効果があるとされているのは、スマトリプタン(イミグラン)の皮下注射です。スマトリプタンは注射以外に、点鼻薬や内服の錠剤がありますが、日本で群発頭痛に保険適応が通っているのは注射薬だけです。また古くからおこなわれている方法ですが、高濃度酸素をもちいた酸素吸入(7L/分で15分間)も有効性がみとめられています。
近年困っていることがあり、それはスマトリプタンの注射薬の流通が悪く、なかなか入手できないといった状況があります。点鼻のほうはもっとひどくてまったく製造中止されている状態です。群発頭痛の患者さんは、群発期にはかなり皮下注射薬を使用するので本当に困っています。製薬会社に早期の解決をお願いしたいところです。
群発頭痛の予防療法としては、以前からカルシウム拮抗薬と呼ばれる高血圧や不整脈に使われる薬の内服がおこなわれています。ベラパミル(ワソラン)がよく使用されます。また、ステロイド(プレドニゾロン)も用いられます。最初多めの量からスタートし漸減していきます。いまのところ、予防療法としてはあまり新しいものはでてきていないのですが、片頭痛の治療薬としてでている抗CGRP抗体薬は有効な方法として米国では認知されていますので、日本での群発頭痛への適応認可が待たれるところです。