アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も一般的なタイプであり、記憶や思考、行動に影響を及ぼす進行性の脳疾患です。以下に、頻度、成因、症状、治療について詳しく解説します。
頻度
日本では、65歳以上の高齢者の約16.7%が認知症を患っており、そのうちアルツハイマー型認知症は全体の60%以上を占めています。これは、高齢者の6人に1人が認知症を発症し、その多くがアルツハイマー型であることを示しています。
成因
アルツハイマー型認知症の主な原因は、脳内にアミロイドβタンパク質やタウタンパク質が異常に蓄積し、神経細胞が損傷・死滅することです。これにより、脳の萎縮が進行し、認知機能が低下します。
発症リスクを高める要因には以下があります:
- 加齢:年齢が上がるほどリスクが増加します。
- 遺伝:特に家族性アルツハイマー型認知症では、遺伝的要因が強く影響します。
- 生活習慣病:高血圧、糖尿病、脳血管障害などがリスクを高めます。(アルツハイマー型認知症と生活習慣病との関連性 )
- 頭部外傷:過去の頭部外傷歴があるとリスクが増加します。
症状
アルツハイマー型認知症は、以下のように段階的に進行します:
- 初期:
- 短期記憶の障害(例:最近の出来事を忘れる)
- 見当識障害(時間や場所の把握が困難になる)
- 判断力の低下
- 中期:
- 言語能力の低下
- 日常生活動作の困難(例:着替えや食事)
- 感情の不安定(例:怒りやすくなる)
- 後期:
- 会話や理解力の著しい低下
- 寝たきり状態になる
- 嚥下障害や排泄のコントロールが困難になる
治療
現在、アルツハイマー型認知症を完全に治す治療法は残念ながらありませんが、症状の進行を遅らせたり、認知症と関連する症状を緩和する方法があります。患者さんが自分らしく生活できる期間を少しでも伸ばしてあげることが大きな目的です。
薬物療法:
1 コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン):
アセチルコリンを分解する酵素「コリンエステラーゼ」を阻害し、脳内のアセチルコリン濃度を高めることで、認知機能の低下を緩やかにする対症療法薬です。今の治療の中心がこれになります。
| 薬剤名(商品名) | 特徴 | 適応 | 剤形 |
|---|---|---|---|
| ドネペジル(アリセプト) | 唯一、軽度~高度ADおよびレビー小体型認知症(DLB)に保険適用。活気や意欲の改善も期待される。 | AD、DLB | 錠剤、口腔内崩壊錠、ゼリー、ドライシロップ、貼付剤 |
| ガランタミン(レミニール) | アセチルコリンエステラーゼ阻害に加え、ニコチン性アセチルコリン受容体への増強作用あり。 | 軽度~中等度AD | 錠剤、口腔内崩壊錠、内服液 |
| リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロン) | アセチルコリンエステラーゼおよびブチリルコリンエステラーゼを阻害。貼付剤で、嚥下困難な患者にも適応。 | 軽度~中等度AD | 貼付剤 |
あくまでも対症療法薬であるため、効果と副作用を慎重に評価し、特に、食欲低下や体重減少、心疾患のある患者では、使用の是非を慎重に判断する必要があります。
効果の継続が例えばドネペジルでどれくらいかといいますと、
臨床試験では、多くの患者において投与開始から3〜6ヶ月で効果が見られることが確認されています。記憶や認知機能、日常生活動作(ADL)の維持・改善が期待されます。その後、個人差はありますが、1〜2年間程度は症状の進行を遅らせる効果が持続する可能性があります。ただし、認知症自体は進行性の病気であるため、ドネペジルによって完全に進行を止めることはできません。また、効果の感じ方には個人差も大きいです。ドネペジルは根治薬ではなく、あくまでも進行を緩やかにする「対症療法」になります。
2 NMDA受容体拮抗薬(メマンチン):
中等度から重度の症状に対して使用されます。脳の興奮性神経伝達物質グルタミン酸が過剰に働くことで神経細胞が障害されるのを防ぎます。中等度〜高度のADに対して使用され、症状の進行を緩やかにします。NMDA受容体拮抗薬もコリンエステラーゼ阻害薬と同じで、「長期的に安定した改善効果があるというよりも、進行を数か月から1年程度抑制する」役割と考えられています。
3 抗アミロイドβ抗体(レカネマブ、ドナネマブ):
アミロイドβの蓄積を抑制し、病気の進行を遅らせる可能性があります。 これも進行を遅らせるといった範囲のものではありますが、アルツハイマー型認知症のより根本的な原因部分に作用するといった意味では従来になかった薬です。
1)レカネマブ(レケンビ)について
- 日本では2023年に承認されたばかりの、抗アミロイドβモノクローナル抗体になります。その名のとおり、脳内に蓄積したアミロイドβ(Aβ)凝集体を標的として除去し、病気の進行を抑える効果を発揮します。どの段階のアルツハイマー病の方にも使えるわけではなく、早期アルツハイマー病(軽度認知障害および軽度認知症段階)の患者さんが適応となっています。導入前にアミロイドβが脳内に蓄積していることを、検査で確認する必要があります。初期の導入してもらえるのは、比較的大きな病院などの医療機関になるかと思います。
- これまでの治療薬は、脳内アセチルコリンの濃度を高めるといった、どちらかというと間接的な働きのものが多かったのですが、レカネマブは、、アミロイドβという原因物質に作用する新しいタイプの治療薬です。早期患者において認知機能低下を27%遅らせた(Clarity AD試験)と報告されており、アミロイドプラークの有意な減少が確認されています。
- 2週間に1回の点滴をおこなうことになります。ARIAとよばれる脳浮腫や小出血が副作用として観察されることがあるため、最初の半年間は導入開始した医療機関でMRIによる定期的なモニタリングが推奨されています。半年間を過ぎますと、副作用のリスクが減るので、お近くの点滴をおこなってくれる医療機関でも可能(当院でも可能)となります。
2)ドナネマブ(ケサンラ)について
- ドナネマブ(ケサンラ)は、日本では2024年9月に承認された抗アミロイドβモノクローナル抗体になります。この薬もレカネマブと同じように、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制を目的としています
- ドナネマブは、特に、Aβが凝集して形成される不溶性のアミロイドβプラークに結合し、これを除去することで神経細胞の損傷を防ぎ、認知機能の低下を抑制します 。レカネマブ(レケンビ)は、可溶性のAβプロトフィブリルに結合するのに対し、ドナネマブは不溶性のAβ凝集体に対して高い結合能を持つとされています。この違いが臨床的な効果や副作用にどのように影響するかは、今後の研究で明らかになるでしょう 。
- トナネマブも点滴静注で投与されます。通常、初回に700mgを4週間隔で3回、その後は1400mgを4週間隔で投与します。
- 治療の終了時期は、アミロイドPET検査により脳内のアミロイドβプラークが除去されたことが確認された時点とされます。ただし、除去が確認されない場合でも、投与は原則として最長18ヵ月で完了します
- 主な副作用としてこの薬もアミロイド関連画像異常(ARIA)が報告されています。
非薬物療法:
- 認知機能訓練やリハビリテーション
- 音楽療法や回想法などの心理社会的アプローチ
- 家族や介護者へのサポートと教育
予防と早期発見
アルツハイマー型認知症の予防や進行の遅延には、以下の生活習慣が有効とされています:
- 定期的な運動:中年期からの運動習慣がリスクを低減します。
- バランスの取れた食事:地中海式ダイエットなどが推奨されています。
- 社会的な交流:孤立を避け、コミュニケーションを保つことが重要です。
- 認知的刺激:新しい趣味や学習を取り入れることで脳を活性化します。
- 定期的な健康チェック:高血圧や糖尿病の管理が重要です。
また、軽度認知障害(MCI)の段階で早期に発見し、介入することで、アルツハイマー型認知症への進行を遅らせる可能性があります。



























